力学 物理

斜面を滑り落ちる小物体とエネルギー保存則の証明

問題

水平面上に傾斜角\thetaの斜面を持つ質量Mの三角台を置き、その斜面上に質量mの小物体を置いて静かに放す。小物体が三角台の斜面を滑り降りるのと同時に、三角台は水平面上を滑り始めた。摩擦はすべて無視できるものとし、重力加速度の大きさをgとする。

二体問題の最も基本的な形です。このように、摩擦が無視できるときは三角台と小物体を合わせた力学的エネルギーは保存します。よって、小物体が高さhから水平面上まで滑り降りたときの小物体の速度をv、三角台の速度をVとすれば、

\frac12mv^2+\frac12MV^2=mgh

が成立します。今回は、この力学的エネルギー保存則を証明します。

運動方程式をベクトルで書く

このような問題を解くときには、いきなり力学的エネルギー保存則を書いてもらっても構いませんが、なぜこの保存則が成立するのかを理解することが大切です。

公式を丸暗記するのではなく、なぜその法則が成り立つのか?どう説明できるのか?を考え、追求することがサイエンスの基本です。公式を覚えて当てはめるような勉強をしていると、数理科学は出来るようになりません。

力学では、まず最初に運動方程式を書くことが基本です。また、今回は2物体が2次元平面上で運動するので、ベクトルで表記することにします。

まずは、力をすべて図示します。このときに、列挙する力に抜けがあると大問題なので、最大限注意します。主に

  1. 重力
  2. 接触面の垂直抗力
  3. 摩擦力

に注意します。今回は、次の図のようになります。

図から、運動方程式を書きます。このときに、力はあくまでベクトルとして書きます。重力もベクトルです。

小物体の運動方程式は

m\dot{\bm v}_1=\bm N+m\bm g\tag*{①}

三角台の運動方程式は

M\dot{\bm v}_2=-\bm N+M\bm g+\bm R\tag*{②}

となります。

さらに、この運動には束縛条件があります。それは、

小物体が三角台の斜面に沿って滑り降りる

ということです。小物体は、三角台の斜面に対して浮いたり沈んだりせず、常に斜面に張り付きながら滑り降ります。すなわち、三角台と小物体の相対速度ベクトルは斜面に平行だということです。わからない人は、次の図を見てください。

したがって、上の図より

\bm v_1-\bm v_2\small{/\mkern-5mu/}(\textnormal{\small 斜面})

が束縛条件になります。したがって、

\bm v_1-\bm v_2\perp\bm N

ですから、

(\bm v_1-\bm v_2)\cdot\bm N=0\tag*{③}

を得ます。この3つの式を使いましょう。

エネルギー積分をします。①\cdot\bm{v}_1+②\cdot\bm{v}_2より

\begin{aligned} m\dot{\bm v}_1\cdot\bm v_1+M\dot{\bm v}_2\cdot\bm v_2 &= (\bm N+m\bm g)\cdot\bm v_1+(-\bm N+M\bm g+\bm R)\cdot\bm{v}_2\\ \frac{d}{dt}\left(\frac12mv_1^2+\frac12Mv_2^2\right)&=\bm N\cdot(\bm v_1-\bm v_2)+m\bm g\cdot\bm v_1+M\bm g\cdot\bm v_2+\bm R\cdot\bm v_2\\ \frac{d}{dt}\left(\frac12mv_1^2+\frac12Mv_2^2\right)&=m\bm g\cdot\bm v_1+M\bm g\cdot\bm v_2 \end{aligned}

最後の式変形には、③式の(\bm v_1-\bm v_2)\cdot\bm N=0を用いています。束縛条件によって、垂直抗力と相対速度ベクトルが内積0になり、仕事率が0になることに注目してください。つまり、垂直抗力は相対的な運動でも仕事をしません。この事実は極めて重要です。

垂直抗力は相対的な運動でも仕事をしない

続いて、両辺を時間積分して

\Delta\left(\frac12mv_1^2+\frac12Mv_2^2\right)=-mg\Delta y_1-Mg\Delta y_2

を得ます。\Delta y_1,\,\Delta y_2は、それぞれ小物体と三角台のy軸の変位です。よって、

\begin{aligned} \Delta y_1&=0-h=-h\\ \Delta y_2&=0 \end{aligned}

より、水平面に滑り降りた後の小物体と三角台の速度をv,\,Vとすると

\frac12mv^2+\frac12MV^2=mgh\tag*{④}

となります。これでエネルギー保存則が証明出来ました。

運動量保存則

次に、運動量保存則を示します。運動量保存則を示すのは簡単で、①+②をすると

m\dot{v}_1+M\dot{v}_2=m\bm g+M\bm g+\bm R

となり、内力\bm Nが消えます。重力と地面からの抗力\bm Rは鉛直方向にしか働かないので、水平方向に分解します。よって

\begin{aligned} m\ddot{x}+M\ddot{X}&= 0\\ \frac{d}{dt}\left(m\dot{x}+M\dot{X}\right) &= 0\\ m\dot{x}+M\dot{X} &= \textrm{const.} \end{aligned}

となり、これで運動量保存則が得られました。今はどちらも初速度0で静かに放すので、

m\dot{x}+M\dot{X} = 0

となります。

小物体が水平面にまで滑り降りた後は\dot{x}=v,\,\dot{X}=Vなので、

mv+MV=0\tag*{⑤}

と書き直せます。

最後に④と⑤を連立して解くことで

\begin{aligned} v&=\sqrt{\frac{M}{m+M}\cdot 2gh}\\ V&=-\sqrt{\frac{m^2}{M(m+M)}\cdot 2gh} \end{aligned}

が得られます。ただし、小物体は右側に滑っていくため、vは正の値を採用し、左側に滑っていく三角台の速度Vは負の値を採用しました。これが滑り落ちた後の小物体と三角台の速度です。

これにより、小物体と三角台が滑り降りるときのエネルギー保存則と運動量保存則について確認できました。今は、斜面が平らな三角台について考えましたが、これがなめらかな曲面になっていても同じです。なぜなら、なめらかな曲面は無限に拡大して見れば直線に近似できます。直線の斜面上ではエネルギーが保存することは今確かめたので、使って構わないでしょう。

物理では、わからなくなったら原理の運動方程式に立ち返り、定義から保存則を導出することが基本です。公式を丸暗記したりするのではなく、原理原則から考える習慣を身に着けてください。

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岡田

ラディカル高校数学管理人の岡田です。地方公立高校から一浪して東京大学理科一類に合格。現在工学部在学中。都内で塾講師として高校数学を教え、100人以上の生徒を見てきました。自分の経験を活かして高校数学をわかりやすく教える活動をしています!

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